■3. サービス管理の仕組みと課題

 3.1 サービスの構築

 情報通信サービスの構築とはネットワークを主体とする設備基盤にカスタマとの契約に基づくサービス仕様の実装を行うことである.ここでは

 ・ 契約内容に基づきサービス提供に必要なリソースを割り当てる
 ・ カスタマ側装置を含む各リソースを設置・構成する
 ・ サービスの提供状態を試験して確認し料金サービスの準備を完了させる
 ・ カスタマにサービス開始を連絡する

という一連のプロセスが進められていく.加えて,カスタマによるサービス内容や料金体系の変更等,サービス開始後に行われる再構成作業もサービスの構築に含まれる.

 情報通信サービスには地理的に分散した膨大な設備リソースが存在する.また,提供するサービスの内容はカスタマのニーズや競合により様々に変化するため,設備構成も随時追加・変更がなされている.更に,技術革新がSPに設備とサービスの両面において予想もしない変化を要求する.このような状況のもと,SPにはサービス提供開始までのリードタイムの短縮と設備の有効利用が求められている.したがって,サービスの構築プロセスには大規模な設備を迅速に構成割り付けが可能で,設備やサービスの新規追加や変更にも柔軟に対応できる管理が必要となる.

 この管理を実現するために,

 (1) 分散共有リソースの統合管理
 (2) 作業のフロースルー化
 (3) サービスのモデル化

が重要となる.(1)には,通信装置等の物理的リソースの構成管理やIPアドレス等の論理的リソースの払い出し管理のように,分散して存在するリソースを複数の異なるサービス構築時に共有リソースとして参照できるようにするという課題がある.従来はサービスごとに固有のリソースを占有していたが,今日ではIPネットワークの回線内でのサービス多重や電話番号のナンバーポータビリティのようにSP間で共有する論理的リソースの登場もあり,共有リソースの管理が格段に重要性を帯びてきている.リソース管理のための論理アーキテクチャに関してはTMFのNGOSS(7)プログラムで検討されており,共有する情報モデルとしてシェアドインフォメーションデータモデル(SID)が提唱されている.(2)のフロースルーに関してはSPの組織間をまたがる業務を連携するビジネスプロセスに関する課題と,各種通信装置のように個別に設計されているリソースを一意の命令で管理制御できるようにする仮想化の課題がある.TMFでは前者についてeTOM(4)がSPの業務プロセスマップとして提案され,後者についてはIPNM(7)にてIPネットワークレベルの管理モデルによって下位のリソースを抽象化するような試みが行われている.(3)は多様化するサービスに対して迅速かつ柔軟なサービス管理モデルを確立する課題がある.DMTF(8)やIETF(9)を中心にポリシー管理のようなサービス制御技術が検討されている.

 3.2 安定したサービスの提供

 サービスを契約どおりに安定して提供するためには,問題や障害が発生したとき,その影響を最小にしてサービスを早急に復旧させることが必要となる.そのためにサービスの障害管理及び性能管理が行われ,サービスの監視,障害の通知・報告,応急対策・原因分析・解決策の実施という管理プロセスが実行されている.

 近年,障害管理,性能管理の目的が従来のネットワーク設備の保全,管理というネットワーク技術指向から,サービス利用者であるカスタマの側から見たサービスの保全というカスタマ指向に変ってきている.図3にカスタマ主体のサービス監視プロセスを示し,以下に解説する.



      CRM : Customer Relationship Management

図3 カスタマ主体のサービス監視  カスタマ主体のサービス品質管理ではカスタマとの契約に基づいたサービスレベルが障害/性能管理から抽出されたサービスへの影響度と比較される.


 一般的に情報通信サービスではサービスを提供している装置を監視している.カスタマへ提供しているサービスの劣化を監視するためには,装置の障害や性能情報から影響を受けるサービスとそれを利用しているカスタマを特定することが必要となる.サービスインパクト解析では障害管理,性能管理から発生したアラーム情報を基に影響を受けるサービスの特定を行う.旧来の回線交換形の情報通信サービスでは,障害回線を特定することでサービスを利用するカスタマを直接的に関連付けてきた.しかしながら,IPを主体とするサービスでは複数ユーザの,電話やメール等の複数のサービスパケットが同時に同一回線上に流れるため装置故障のような障害に対し一意に対象サービスやカスタマ名を識別することが難しい.これに対しては,個別のサービスごとに通信の経路とQoSを割り付けることができるトラヒックエンジニアリングの技術が研究されており,ITU-Tで検討が始まった次世代ネットワーク(NGN)(10)ではその実現が期待されている.

 安定したサービスの提供とはカスタマごとのサービス品質(QoS)を満足することである.QoSはそれを提供するために必要なコストと関係するので個別カスタマとの契約ベースで管理される.サービスインパクト解析で弁別された個別カスタマごとのQoS劣化値はサービス品質管理において個々の契約によるサービスレベル情報と比較され,評価判定が行われる.結果はカスタマケア/CRMを通してメールや電話等でカスタマへ通知,報告される.

 

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