■2. 情報通信サービスとサービス管理

 2.1 情報通信サービスの動向

 1980年代にインターネットが誕生すると,データのパケット化による通信回線の共有,IPを基盤とする通信プロトコルの標準化,通信機器のオープン化等によりネットワークの利用コストが低下した.これによりネットワーク接続を前提としたサービスがビジネス的に提供可能となった.

 図1に情報通信サービスとアプリケーションの変遷を示す.1980年代の固定電話や専用線のサービスに加えて1990年代にはインターネット接続にバンドルされた電子メールやWeb閲覧などの基本サービスが広く一般に商用化された.加えて携帯電話の普及は電話や電子メール,情報検索などのWebアクセスにモビリティをもたらした.2000年になるとネットワークのブロードバンド化技術とともに,VoIPによる音声伝送技術,ストリーミングやマルチキャストによる映像伝送技術が開発され,IP電話やIPTV,eラーニングやオンラインゲーム等,数多くのサービスが提供されている.特に最近ではボイスとデータ及び映像技術が融合したマルチメディアテクノロジーが開発されており,マルチメディア会議をはじめとしたサービスへの展開が注目されている.また,携帯電話や無線LANによるモビリティの多様化はサービスをシームレスに統合しつつある.このようにIPを基盤とした技術革新は情報通信サービスの多様化と融合をうながしている.

 

図1 情報通信サービスとアプリケーションの変遷

ATM:Asyncronous Transfer Mode  VoD:Video on Demand  CUG:Closed User Group

図1 情報通信サービスとアプリケーションの変遷
情報通信サービスは携帯電話とインターネットアクセスの発展により空間的な広がりと利用者増を招いた.2000年代にはブロードバンド化を背景にマルチメディア化が進み,種々の新サービスアプリケーションが開発されている.


 一方,政府による法的規制緩和や要素技術のオープン化/モジュール化は情報通信サービスの市場に競争をうながした.その結果,長い間ネットワーク技術指向のサービスを提供していたサービスプロバイダ(SP)はカスタマ指向のサービスを提供する方向に変ってきている.また,近い将来に実現が予想される“ユビキタス”の時代にはユーザの要求を満たすサービスを「いつでも,どこでも」即座に提供することが不可欠となる.これはSPのサービスだけでは不十分となり,複数のパートナーとの連携サービスを提供しなければならなくなることを示唆している.今後の情報通信サービスではカスタマニーズを満たすサービスをパートナーと協力して早期に提供するということもまた問われている.

 2.2 サービス管理――Who, What, Why and How――

 SPが提供するサービスの管理を議論する場合に,だれが,何を,何のために管理するのかを明確に意識して議論する必要がある.

(1)  「だれが」,すなわち管理主体については,従来SPが管理主体であるとした議論が多かった.近年では,カスタマも管理の主体であると認識されるようになり,SPとカスタマとの協調,SLAにおけるネゴシエーション,更には,カスタマ自身によるオペレーション等々,カスタマを中心に添えた管理プロセスやそれを実現する管理システムが主要課題となってきている.
(2)  「何を」,すなわち管理対象については,提供する,あるいは提供されるサービスの定義を明確にする必要がある.SPとカスタマ間では図2に示すような構造で3種類のサービスが提供されていると考えられるが,当初は,電話,専用線サービス等に代表される「情報伝達サービス」が,サービス管理の対象として取り上げられ,そのサービス内容,性能等の議論が中心となっていた.一方,カスタマも管理主体の一員であるとの認識に連動して,「オペレーションサービス」が明確に認識されるようになり,ITU−Tでは限定的ながらも,カスタマコンタクトポイントで交換する保守情報(MICC)(1)が勧告化され,近年では,カスタマ関係管理(CRM)あるいはカスタマケアと課金(CC & B)等の議論に見られるように,「オペレーションサービス」が主要な管理対象として位置付けられている.「料金サービス」は,従来のタリフとしての固定的料金設定から,近年では,カスタマの利用形態,SPのリソースの活用状況等を考慮した木目細かで多様な料金体系が出現し,管理対象として強く意識されるようになってきた.
(3)  「何のために」,すなわち管理目的については,従来は,情報伝達サービスを対象として,FCAPS (Fault/Configuration/Account/Performance/Security)の管理目標がSP内部で設定され,その目標達成が目的とされてきた.近年では,SP業界の競争激化の影響もあって,カスタマに満足して頂くこと,カスタマをつなぎ止めること,リソースを最高度に利活用してプライスを下げること,更には,競争に生き残ること等々,SPの外部に目を向けた管理目的が明確に認識されてきた.すなわち,外から見たSPの存在価値の確立が究極の目的となってきたといえよう.一方,カスタマから見た目的は,SP内部の性能よりは,満足できるヒューマンインタフェースとSLAの実現に集約される.
(4)  「どのように」,すなわち管理方法については,OSS(Operations Support System)の作り,すなわち,システムアーキテクチャ,インタフェースの標準化,ソフトウェアの構造等,相互接続性の確保と同時にソフトウェアの流通性,再利用性をねらいとしたCOTS(Commercial Off The Shelf)やPnP(Plug and Play),その裏づけとなる情報モデル等,システム構築の技術面が主要課題として議論されてきたが(2),近年は,更にOSSで実現しようとするビジネスプロセスの再構築とプロセス共有化の必要性が認識され(3),これらの検討が,TMF(TeleManagement Forum)等の各種コンソーシアムで進められ(4)〜(6),ITU-Tにおいても,TMFと連携して,ビジネスプロセスを勧告化する作業が進められている.

図2 サービス提供構造


図2 サービス提供構造

 

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