■3. 長距離・大容量光伝送技術


 波長多重伝送はフォトニックネットワークの新たな展開を伝送面から支える技術である.ここでは,ネットワーク構成の自由度を高めるという視点で波長多重伝送の超多波長化と長距離化について,それを実現するための要素技術と併せて議論する.

 3.1 超多波長化技術

 フォトニックネットワークで使用可能な波長数を増大させることは,ネットワーク構成とサービスの自由度を高める上で,非常に重要である.特に波長単位でサービスを行うことや,波長を用いてネットワーキングを行うことを考えると波長数は多い方が望ましい.波長数を増大するには,使用可能な波長域を拡大することと多重密度を上げることが必要である.多重度を上げるには,チャネル間隔を詰めるための多重分離技術に加え,周波数利用効率を高める変調方式の検討も重要になる.それぞれの技術開発状況と課題は以下のとおりである.

 @ 新しい波長域の開拓
 ツリウム添加光ファイバ増幅器(TDFA: Tm Doped Fiber Amplifier)やエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA: Er Doped Fiber Amplifier)をベースとしたSバンド(1,490nm帯)用光増幅器の開発が活発に進められている(3).同じくL+バンドの光増幅器の検討も行われている.励起波長を変えることにより,任意の波長帯での増幅が可能になるラマン増幅への期待も大きい.

 使う波長域が広がるにつれ,ラマン増幅に起因する利得チルトが発生する.これを抑えて広い波長域にわたって均一な伝送特性を実現するための伝送路設計/システム構成の検討も重要である.

 A 狭チャネル間隔多重
 ネットワーク構成の自由度を高めるために多波長を準備するという観点からは,チャネル速度を2.5Gbit/sあるいは10Gbit/sに抑え,チャネル間隔を詰めて超多チャネルを実現することも考えられる.この場合,チャネル間隔としては25GHzや12.5GHzが想定され,これを実現するための,絶対波長安定化並びにその測定技術,狭波長間隔に対応する光フィルタ技術等の確立が不可欠となる.既に狭チャネル間隔に対応したアレー回折格子(AWG: Arrayed Waveguide Grating)の開発等が進んでいる.

 B 周波数利用効率の改善
 高密度多重を可能にする技術として,偏波多重分離技術,単側波帯変調や残留側波帯変調,振幅並びに位相情報を用いることによる多値変調の利用等が考えられている.いずれの技術も可能性の議論/実験的検証がなされているレベルであり今後の進展が期待される.

 以上の技術を組み合わせていくことで,将来的には1,000波以上の波長多重も可能になる.図2に1,000波多重を実現するための所要帯域とチャネル間隔を示す.現状使用されているC, L両バンドを用いる場合でも,チャネル間隔を10GHz程度にまで狭めれば1,000波レベルの多重が可能である.チャネル速度が2.5Gbit/sの場合には,10GHzは実現可能なチャネル間隔であり,このような信号の発生・多重実験の報告も始まっている(4).チャネル速度10Gbit/sで1,000波以上を実現するには,使用可能波長域,多重度双方であと一段の技術革新が求められる.超多波長化を進展させるには,多くの波長が利用できることを生かしたネットワーク構成(例えば波長ベースのフルメッシュネットワーク)やネットワークアプリケーション(例えばインタフェース無依存のサービス多重)を明確にし,その良さを広く訴求する活動の強化も望まれる.

 

図2 1,000波WDMの実現に必要な波長域とチャネル間隔
現行の変調方式では,周波数利用効率0.5bit/s・Hz以下に制限されることを考えると,10Gbit/sベースで1,000波以上を実現するためには,何らかの技術革新が必要となる.

 

 3.2 長距離化技術

 一方,光レベルでのカットスルーを可能にし,ノード構成上の自由度を高めるのに貢献する超長距離伝送技術については,伝送特性を改善するための個別技術の検討が進められている.その主なものは以下のとおりである.
 ・ 高性能光増幅器(低雑音特性)
 ・ 分布ラマン増幅
 ・ 長距離伝送に適した伝送符号の検討(RZ,CS-RZ等)
 ・ プリチャープ
 ・ 誤り訂正符号(FEC), SuperFEC
 ・ 分散マネジメント伝送路

 今後は,システム所要と導入コストを考慮して,上記の技術の幾つかを組み合わせて所要性能を実現していくことになると考えられる.

 超長距離伝送を想定した場合,分散補償/偏波分散補償が,特にチャネル速度が高速なシステムでは必須となる.また,WDMシステムにおいては広い波長域(全チャネル)にわたって,均一な伝送特性を実現する必要があり,このためには広帯域にわたる利得等化,分散スロープ補償等を検討することも重要である.

 超長距離伝送技術を,ノードにおける光レベルでのカットスルーを含めた新しいネットワーク構成を支える基盤技術と位置づけると,波長選択性のコンポーネントを多段に透過した場合の特性(スペクトル特性,光SN特性)を含めた議論を行うことも重要となる.このように長距離化技術についてもやはり適用領域を明確にした上で,システム全体で所要特性を満たすような検討を進めていくことが不可欠といえる.



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