1.
アクセスネットワークの
現状と将来展望

三 木 哲 也   篠 原 弘 道

電子情報通信学会誌

Vol.84 No.2 pp.77-83

2001年2月
三木哲也 正員:フェロー 電気通信大学電気通信学部情報通信工学科
E-mail miki@ee.uec.ac.jp

篠原弘道 正員 日本電信電話株式会社NTTアクセスサービスシステム研究所
E-mail shino@ansl.ntt.co.jp

Present Status and Vision of Access Network. By Tetsuya MIKI, Fellow (Faculty of Electro-Communications, University of Electro-Communications, Choufu-shi, 182-8585 Japan) and Hiromichi SHINOHARA, Member (NTT Access Network Servise System Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Chiba-shi, 261-0023 Japan).

★ABSTRACT

 インターネット利用の急増やアクセス市場での競争の進展などアクセスネットワークを取り巻く環境は大きく変化している.本稿では,現在までのアクセスネットワーク進展の経緯を概説するとともに,xDSL,光(FTTH),HFC,固定無線,移動無線,衛星・放送波を用いた各種アクセスシステムの特徴や開発動向を概観する.更に,今後重要となる宅内・構内のネットワークや新たなコミュニティネットワークの概念を述べ,高速化・高度化の需要がますます高まっていく中での,今後のアクセスネットワークの方向性を展望する.

キーワード:アクセスネットワーク,IP通信,コミュニティネットワーク,FTTH,xDSL,FWA


-


■1. は じ め に

 IT革命という言葉に代表されるように,通信市場は急激な変貌を遂げている.電気通信の歴史の中でこれまで絶えず右肩上がりの成長を遂げてきた「固定電話」のユーザ数が1990年代後半に減少に転ずる一方で,ISDN等のデータ通信や携帯電話の需要が急激に増加している.携帯電話やPHSは単なる音声通信だけではなく,移動中のデータ通信手段としての役割を増している.1990年代におけるパソコン技術の飛躍的進歩とインターネットの驚異的な普及が,最近のISDNや携帯/PHSの需要増に大きな影響を与えている.情報通信の環境は,電話を中心とした社会から,データ通信を主体とした情報流通社会へと大きなパラダイムシフトを起している.この変革に対応し,情報通信インフラの使命を制するアクセスネットワークは大きな転換期を迎えている.従来の「電話」に最適化されたアクセスネットワークから,「大量かつ多様な情報」を扱えるアクセスネットワークへ移行することが,IT革命を先導する上で不可欠の課題となっている.

 本稿では,アクセスネットワークを取り巻く環境の変化,アクセスネットワークの変貌,インターネットプロトコルによる通信(以降,IP通信と称す)の需要にこたえるアクセスシステムの開発動向,今後の展望を概観する.




■2. アクセスネットワークを取り巻く環境の変化

 近年アクセスネットワークを取り巻く環境の変化で特筆すべき事項は,「インターネット利用の急増」と「競争の進展」の2点である.

 最近の日本におけるインターネット利用者数は年間60%も増加しており,1999年末には2,700万人に達し,人口普及率が20%を超えている.インターネットの利用が急増している背景には,パソコンの進歩と大幅な低価格化,電子メールの普及やウェブサイトの充実,あるいはインターネットショッピングの立ち上がりなど様々な要因が挙げられるが,日本の特徴であるモバイルインターネットの爆発的な人気は,インターネットの普及を一層加速している.1999年2月にNTTドコモがサービスを開始したiモードは,2000年8月には早くも利用者が1,000万人を超え,その増加のペースは衰えを知らない.このまま推移すると,モバイルインターネットを加えた人口普及率は,2001年度末には米国を抜いて世界最高水準となり,2003年度には80%を超えるとの予測もある(図1).更に,インターネットの量的拡大に加え,インターネット上を流れる情報メディアの種類もテキストから静止画や音楽,更には動画へと大容量化・広帯域化が進んでいる.したがって,今後のIP通信のトラヒックは,量(利用数)と質(情報メディア)の積で拡大が進むだろう.


図1 日本のインターネット普及状況
インターネット利用者数は1999年末には2,700万人に達し,
普及率は20%を超えている.モバイル・インターネットを加えた
人口普及率は2003年には80%を超えると予測されている.



 この急伸するIP通信需要を巡り,既存の通信事業者やCATV事業者だけでなく新規に参入した様々な事業者が,アクセス市場において本格的な競争を始めている.1999年度に通信市場に新規参入した第一種電気通信事業者は94社で,うち84社が地域系事業者である.地域系事業者は1999年度末には162社となり,この1年間で倍増したことになる.アクセスネットワークの競争に拍車をかけた一つの要因が,様々なアクセス系技術の進展である.

 光ファイバケーブル,対ケーブル,同軸ケーブル,無線,衛星など種々の伝送媒体によってIP通信を提供する技術が出現している.媒体の違いにより,初期投資の額,サービス開始までに要する時間,収益性を確保するために必要なユーザ数が異なる.したがって,それぞれの事業者は自身が保有するネットワーク設備,サービス展開戦略に応じ,種々の手段でIP通信の提供を検討している.




1/6


| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.