2.3 バイオテクノロジーの医療技術への応用

(1) DNAを基盤とした新しい医療技術

 1991年米国・Affymetrix社のFodorらにより基盤上でオリゴヌクレオチドの伸長反応を行って直接プローブを合成したDNAチップが開発され,産業化へ向けて大きな一歩が踏み出された.このほか,スタンフォード大学のBrownらのグループによりDNAマイクロアレーが開発された.これらのDNA解析技術の利用分野としてSNPs (Single Nucleotide Polymorphisms;単一塩基多様性)の解明がある.人によるアルコール耐性の差や薬剤感受性の違い,肥満傾向などがSNPsに関係するとされている.遺伝学的特性を読み取るSNPs解析チップセットは,今後の強力な解析手段であり,チップ開発とともに膨大なSNPsデータ収集の競争が始まっている.今後医療は,個人のDNA情報に基づいてレディメイドの医療から“テーラーメイドの医療”へと大きく前進することになり,個人のわずかな変異差をデータベース化する試みもある.すなわち遺伝子情報の利用は“バイオインフォマティクス”であり,情報技術関係の研究者の参加が不可欠になる(図4).また遺伝子治療についても,現状では自動制御にたとえれば“オープンループサイクル”であり,将来“適切なフィードバック制御”に基づく遺伝子形質発現の促進や機能発現を試みる時代になろう.そのためにも,機能発現状況のモニタリング技術が必要であり,医用生体工学に基づく研究支援が必要になる.すなわち,遺伝子治療においても従来からの画像技術や,ITを中心とした医用生体工学と分離して進展させることは不可能である.


(2) 組織工学から再生医療へ

 これまで再生医療の核となる細胞・組織工学と遺伝子工学の研究・開発は個別に進められているが,今後は画像技術研究者,組織工学研究者,遺伝子工学研究者らが融合し組織工学に遺伝子工学手法が大幅に導入されることは間違いない.前述した遺伝子診断・治療が情報技術の支援なくして行き詰まるように,組織工学においても遺伝子技術がなければ,より優れた生体組織を提供できない.



■3. 福祉技術,生活支援技術の方向性

 今日的時代背景においては,図1及び図2に示したような医療・福祉・保健が一体化された支援技術が望まれる.障害者に関して規定している世界保健機構(WHO)のICDIHにおいても,“Medical Model”から“Social model”への転換が提起されており,今後はリハビリテーション医学を核としながら,近年急速に発展しつつあるリハビリテーション工学,更には日常生活において機能低下によって生ずるdisabilityを克服するための生活支援工学(2000年9月に日本生活支援工学会が発足)と連携していく必要性があろう.図2に示されるように福祉工学においては生活支援や社会活動支援技術として情報通信技術とコンピュータ技術を駆使した情報メディア変換技術が極めて重要な技術になる.加えて社会生活全般にわたってdisabilityを解決するための一つの概念として,バリアフリーデザインやユニバーサルデザインの考え方が急速に浸透しつつある.いずれにせよ,今後は従来では工学や医学の直接的対象にならなかった間接的対象分野が,著しく拡大していくことに目を向けなければならない.














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