■3. 第5回火の玉国際会議

 1992年にシドニーで開催された国際会議で,日本のランダム媒質電磁波伝搬の専門家の一人である京都大学の小倉久直教授(当時)が,ランダム媒質中で電磁波強度が指数関数的に増減する,すなわち局在するという興味深い結果(7)を発表されるのを聞いた.この発表に勇気付けられ本業の間に少しずつ計算を始めた.最初はランダムに変化する空気の屈折率が局在を起さないかを調べてみたが,その屈折率揺らぎは余りにも小さく,面白そうな結果は得られそうもなかった.

 1997年に新潟県津川市で“第5回火の玉シンポジウム(ISBL97)”が開催されることを知り,アイデアだけでも発表しておこうともう少しまじめに計算を始めた.一番簡単で解けそうな図1のような例,ランダムな壁面形状を持つ二次元金属導波路(ランダム導波路)の電磁波シミュレーションをしてみた.導波路の平均幅が単一モード条件を満たす範囲で境界要素法を使ってシミュレーションを行った.幅約0.995波長の二つの無限長直線導波管の間にランダム導波路を挟んだ構造を考え,左方向から基本モードを入射し,反射,透過係数,電界強度分布を求めた.ランダム導波路の長さは約32波長である.

図1 ランダムな壁面形状を持つ金属導波管

図1 ランダムな壁面形状を持つ金属導波管
横方向と縦方向の縮尺が異なる.


 簡単な計算に見えるかもしれないが,微妙な壁面凹凸での境界条件を満足し,エネルギー保存則や相反則を満たす精密な数値解を得るのは苦労した.それらしき結果が出るようになってから系統的に計算を進め,一か月くらいかかって図2のような壁面凹凸の大きさと入射エネルギーと透過エネルギーの比,電力透過係数との関係を求めた.図2の白丸は図1で右方向から入射させたときの電力透過係数であり,左方向から入射させた場合(実線)とほぼ同じ値になっている.これは結果が相反性を満足していることを示しておりシミュレーション結果の妥当性を示している.

図2 壁面凹凸の大きさと電力透過係数との関係


図2 壁面凹凸の大きさと電力透過係数との関係
横軸の凹凸の実際の大きさは図3(a),(b)を参照.



 図2から,まずランダム壁面の凹凸が小さいと,電磁波はこのランダム導波路をほぼ通り抜けることが分かる.またランダム壁面の凹凸が大きいと,壁面からの散乱の結果,電磁波はこのランダム導波路を容易には透過することができないことも分かる.この二つの間に,中間の特性を持つ領域があり,このような性質は物理的に考えて極めて妥当な結果であろう.

 図2から,共振によって,入射エネルギーがほとんど透過したり,あるいは,ほとんど反射したりするランダム壁面凹凸の値があることが分かる.例えば図2(a)(b)点である.このときの電界強度分布を求めた.図3(a)は図2(a)点での,図3(b)は図2(b)点での電界強度(絶対値)分布を示す.図3(a),(b)において白線が実際の導波路ランダム壁面形状を表す.いずれも電磁波は局在しており,図3(a)では電界強度の最大値が入射波の約100倍,図3(b)では入射波の約30倍に増強されている.

図3 電界強度絶対値の分布 (a)
(a)
図3 電界強度絶対値の分布 (b)
(b)

図3 電界強度絶対値の分布 白線は実際の導波路壁面.
(a)の最大値は入射波の約100倍.(b)のそれは約30倍.


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