■ 3. ミリ波路車間高速通信システム

 高度な情報空間としての車への期待は,快適な走行環境の実現の観点から高まってきていることを先に述べた.車載LANの動きもその一つの現れであり,室内にいるのと同じような情報空間を車中でも享受したいという要求は,高度情報化社会では自然の流れでもある.走行中あるいは駐停車中の車からインターネット網等に自由にアクセスするためには,高速伝送の路車間通信システムが不可欠である.音声や映像情報を走行中や停車中の車にダイナミックに提供できれば,CDやビデオテープ等のパッケージソフトをあらかじめ搭載することなく,欲しい情報を路車間通信を介して入手することができる.また,見損じたTVニュースや新聞などを車中で見ることもできる.更に,車が撮影した映像やセンシングした路面状況の情報等を路側のネットワークに送ることもでき,快適性と安全性に広がりが出てくる.


 3.1 予約型コンテンツ配信システム

 走行中や停車中の車に,大量の情報を短時間でダウンロードできるシステムの実現を目指して,ミリ波高速路車間通信の研究開発が進められている(6).本システムでは,ユーザはあらかじめ,自車のIDプロファイル,所望のコンテンツ,現在位置と目的地等の情報を既存の携帯電話等の通信手段を通じコンテンツ配信プラットホームに伝えておく.図5にコンテンツ配信プラットホームの構成を示す.本プラットホームは,サービスアクセスドメイン,サービス仲介ドメイン,コンテンツ提供ドメイン,コンテンツ配信ドメイン,外部ドメインから構成され,これらはインターネット網を介して結ばれている.ユーザの車が移動し,コンテンツ配信ドメインの高速無線アクセスゾーンに進入したとき,所望のコンテンツが配信される.この間,サービス仲介ドメインはユーザの通過経路を予測し,通過もしくは駐車すると予測されるコンテンツ配信ドメインのサーバに,ユーザの所望のコンテンツをキャッシングしておく.このような処置はエージェント機能で行われる.配信プラットホームの詳細については,文献(7)を参照されたい.


図5 コンテンツ配信プラットホームの構成

図5 コンテンツ配信プラットホームの構成



 ミリ波をこの配信ドメインの高速無線アクセスシステム,すなわち路車間通信に適用すれば,高速伝送の配信が可能になる.ここでは,横須賀リサーチパーク(YRP)で行われている36〜37GHz帯や60GHz帯を利用したミリ波高速伝送実験について述べる.図6に,実験システムの基本構成を示す.本実験システムは制御局,光ファイバ区間,局地基地局,無線区間,移動局から構成されている.本システムでは,統合基地局と路側の局地基地局との間に光ファイバ無線RoF(Radio on Fiber)を導入している.


図6 光ファイバ無線(RoF)によるミリ波高速伝送実験システムの基本構成

図6 光ファイバ無線(RoF)によるミリ波高速伝送実験システムの基本構成


 RoF伝送は光ファイバの広帯域性と半導体レーザや光外部変調器の線形特性,フォトダイオードの高速応答特性等を利用し,信号をマイクロ波やミリ波のサブキャリヤに載せて光ファイバで伝送する.RoFを用いれば,信号を低損失で伝送でき,かつ,空中を伝搬している電波との干渉を回避できる.更に,曲がりくねった道路や変形地の駐車場であっても,局地基地局を複数設置し場所を絞ってゾーンを構成することができる.そして,同一の統合基地局傘下の局地基地局間ではハンドオーバを必要としない.このような特徴を有するRoFのITS通信や移動体通信への応用については,文献(8)を参照されたい.

 


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